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エッセー集 イタリア散歩道

日本の伝統を

村上 佳子
ラティーナ在住 イタリア語検定協会会員Le Ali 14号

イタリア語で日本の伝統について説明することほど、難しいことはないと私は感じる。イタリアの事は随分勉強したが、逆に日本の事に関心を持って学ぶのを怠ってきたことの代償なのか、自分の国の事象について説明するのにつまずくことも少なくなく、無知な自分が情けなくなる。例えば、“だるま人形”“こけし人形”を見てこれは何ですかとイタリア人に聞かれた場合、それぞれの由来に理解していないとうまく説明できないし、“春雨”“水飴”をイタリア語訳するにあたっては原料についての知識が不可欠だ。イタリア語を翻訳するについても同様で、日本語の語彙がしっかりしていないと、きちんとした翻訳はできない。外国語をマスターするには日本語そして日本人としての教養が不可欠だということだろう。

イタリアに住んで12年になるが、今後イタリアに長く住み続けたとしてもイタリア人にとって私はいつまでも日本人。日本に生まれ日本で育ったアイデンティティーはどこに身を置いても不変だ。だからイタリアを理解するためのイタリア語だけでなく、日本を理解してもらうためのイタリア語も身につけるよう心がけなければと感じている。

10月の第一日曜日、ローマのテルミニ駅から近いHotel Dianaで“日本文化祭”が催された。東日本大震災の被災者への義援金を集めるためにローマに在住する日本人音楽家仲間を中心に有志が集まって企画した手作りのイベントだ。会場の屋上テラスには、茶道・華道・書道のデモンストレーション、着物の着付けと記念写真、おりがみ教室のコーナーがそれぞれ設けられ、日本歌曲のミニコンサートや、スタッフが持ち寄った日本の品物のバザーも催され、日本に関心がありチャリティーに寄与したいという多くのイタリア人客で賑わった。日本の伝統芸を伝えるりっぱな文化交流の場が創造されていたが、このイベントを支えていたのは、日本への友情のしるしとして会場を無料で提供してくれたホテルのイタリア人オーナー、そしてイタリアに長く在住しイタリア文化を存分に吸収しながらも、きちんと身に付けた日本の伝統芸を誇りにしている元気な日本人女性たちであった。

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