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エッセー集 イタリア散歩道

“門前の小僧”ならぬ門内の二刀流

本多 孝昭
大阪日伊学院講師Le Ali 26号

 物事を始める場合、そこには必ずご縁と呼べるようなきっかけが存在します。私がイタリア語を始めることになったのも、すばらしいご縁があったからです。大学を出て会社勤めをしていた私は、人事部に籍を置き、海外赴任者の語学教育にも携わっていました。ある時、技術者がミラノに赴任することになり、日本イタリア会館で文法の集中レッスンをお願いするため、本人を連れて担当の先生と打ち合わせする日がやってきました。英語と構造の異なる言語を、しかも成人してから学ぶわけですから、いきなり会話のレッスンは無謀、まず文法を理解してから会話へというプログラムでした。実はそのときのご担当が、今、京都産業大学外国語学部教授でイタリア語検定協会会長も務めておられる小林 満先生でした。

 「本多さんもどうですか?夜に初級クラスがありますよ!」先生のこのひと言が、私にとってイタリア語を始めるご縁になりました。もともと食い意地が張って、イタリアオペラや文化にも少しばかり興味があった私は、二つ返事で入学。32才でした。会社が終わった後、週2回夜の文法コースに参加。お声がかかるぐらいだからきっと受講者が少ないんだろう、なんて勘ぐったりもしましたが、どうしてどうしてたくさんの受講者!初級文法から始まり、中級、さらに会話のクラスへと渡り歩き、アウトドア派だった私が、いつのまにか休日は家に籠って単語帳を作ったり、簡単な文を書いたりと、イタリア語のマニアのようになっていました。ところが数年して父が亡くなります。私の実家はお寺で、父は住職でした。ひとり息子の私は会社を辞めて、後を継ぐことになります。それからは寺の住職としての仕事と趣味のイタリア語磨きの日々でした。

 いくらか自信がつき始めたころ、目標を作りたくなりました。勉強してきた証(あかし)が欲しいと思い始めたのです。通訳案内業(現通訳案内士)という資格があると知り、40代半ばで何とか試験に合格します。ありがたいことに、資格を取ると仕事がいろいろ入ってきます。商業翻訳、さらには通訳ガイド。教えることに興味があった私はとうとう日伊学院の大阪校(現大阪日伊学院)を訪ねます。あれこれ自己PRしてどうにか文法と和文伊訳コースの講師のポストを得ました。それから10年以上、たくさんの生徒さんを指導させていただき現在に至っています。イタリア語にそこまでのめり込んで、いったいお寺の仕事はいつやってるんですか?と不審に思われそうですが、そこはうまく両立させています。何と言ってもイタリア語が好きですから。

 どうしてここまでイタリア語にのめり込むようになったのか。私にとってのイタリア語の魅力ですね。それはオペラに代表されるように音の流れの美しさでしょうか。ときにコマーシャルなどでコミカルに誇張されたりもしますが、日本人にとって親しみやすい音の流れがあります。ちょっと勉強したら日本人でもイタリア語が話せそうな予感。日本語が流暢なイタリア人が周りにたくさんいるということは、その逆もありえるということ。日本人にとってイタリア語は練習すれば上手に話せる言語じゃないかなと思わせてくれるんです。実際に私がそうなったかは別としてですよ。しかし、私が学習を始めて一番魅力に感じたのは、まあこれも音の流れといえるのですが、名詞と形容詞の語尾とか、直接目的語人称代名詞と過去分詞の語尾が連動するところでした。

 ところがそこが初めてイタリア語を学習する者にとっては皮肉にも大きな関門になります。文法の初っ端、男性名詞、女性名詞、単数、複数、冠詞が次々に登場して、その組み合わせによって名詞や形容詞の語尾がコロコロ変わっていくところはさすがに面食らってしまいます。ですが、ここは何とかこらえて乗り切りたいところです。厄介であるだけに、理解が進んで、多少でも言葉で操れるようになった時の快感は何とも言えません。日本語や英語にもない記号を扱うような感覚というのでしょうか。これを誤りなく言葉や文章で表現するのは並大抵ではありませんが、だからこそ挑戦し甲斐があるともいえます。世界の言語の中でもトップクラスに難しいイタリア語をやっているんだという誇りは皆さんお持ちいただいていいんじゃないでしょうか。

 文法の学習を続けていくと、こうした山にしばしばぶち当たります。だけど、しっかり本を読んで基礎を押さえていけば、気がついた時にはかなりの水準までアップしているはずです。反対に、それぞれの関門を中途半端な理解で満足して、先に進んでいくと、長い間学習していたつもりが、基本的な理解が不十分なために読み書き、会話ができないということにもなります。くじけそうになっても、もうひと踏ん張りがんばろうとの気概で上を目指して、目標を作って学習に励んでいただきたいものです。日々学習すれば学習しただけの結果はついてきます。レベルの向上は学習時間の総計に比例すると私は思っています。

本気で学ぶイタリア語
本気で学ぶ中・上級イタリア語

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