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検定対策コラム

左方移動:語順にもイタリアらしい厳密さと繊細さ

Le Ali 38号

 イタリア語は割と語順が自由な言語で、学習者にとってはそれが初めのうちは奇妙に感じられるかもしれませんが、より効果的に情報を相手に伝達するための工夫だということが分かってくると、次第に魅力に変わってきます。

 ヨーロッパの他の言語に比べてイタリア語の語順の自由度が高いのは、動詞の人称変化(amo, ami, ama...)がはっきりとしているので主語(io, tu, lui, lei...)が本来の位置になくても分かるということと、補語の代名詞(lo, la, li, le, gli, ci, ne...)が各種そろっているので動詞と補語の繋がりが離れていても分かるということと関係しています。
通常の語順とは異なる文には、大きく4つの種類があります。

1 主語が動詞の後に置かれた文
2 ある要素が文の左方(つまり文頭)に置かれた文
3 ある要素が文の右方(つまり文末)に置かれた文
4 ある要素が分離して置かれた文

今回は"2"について、中でも左方移動、または左方転位(dislocazione a sinistra)と呼ばれる構文を取り上げます。その他については、またの機会に。

 私は2016年秋季(第43回)から過去問題集の文法解説を担当していますが、初めて左方移動が出てきたのは、2020年秋季(第51回)準2級N 26でした。

Le chiavi della macchina _____ tu?
a) hai preso b) hai prese
c) l’hai preso d) le hai prese
「車の鍵は、君が取りましたか?」

文頭に置かれたle chiavi della macchinaは、動詞prendereの直接補語で、本来は動詞の後に置かれるべきものですが、ここでは左方移動しています。直接補語が左方移動したときは、必ず代名詞で受けますので、女性複数のchiaviを受けるleが付いたd)が正解です(正答率53.6%)。この構文を知らなかったのか、26.1%の人がa)を、4.5%の人がb)を選びました。ちなみに、翌回、2021年春季の準2級N 26も同様の問題でした(正答率62.0%)。過去問で対策をすることは大事です!

 では、他の問題を見る前に、左方移動について少し詳しく説明をします。左方移動した要素は、中心となる文を準備する部分と言えます。

・La mamma, non la vedo da un pezzo.
という文ならば、「私は母さんのことについて話しますが、私はしばらく会っていません」と訳すことができるでしょうし、

・A casa mia, i bambini non guardano mai la televisione.
ならば、「今から話すことの場面は我が家ですが、子供たちは決してテレビを見ません」となるでしょう。

 左方移動を使った文では、まず話の前提となる情報が示され、その後、それに関する新しい情報が示されます。そうすることで、文の流れが「既知から未知へ」というスムーズなものになります。

 左方移動した要素が直接補語ならば代名詞で受けることが必須、それ以外の間接補語や場所の補語などならば任意です。

 例えば、直接補語のPieroが左方移動した
・Piero, non lo vedo mai.
「ピエーロとは、私は全く会いません」
では、代名詞のloは必須です。

 一方、間接補語のalla mammaが左方移動した
・Alla mamma, non (le) ho regalato niente.
「母さんには、私は何も贈りませんでした」
では、代名詞のleはあっても、なくても構いません。

 同様に、場所の補語a Romaが左方移動した
・A Roma, quest’anno (ci) vado certamente.
「ローマには、今年、私は確実に行きます」
では、場所の小詞ciは任意です。

  以上の説明を踏まえて、2021年秋季(第53回)の問題を見てみましょう。まず3級N 29です。

Io il ketchup sulle patatine _____ metto sempre.
a) mi ci b) glielo
c) ce lo d) gliene
「私はケチャップをフライドポテトに、いつもかけます」

 動詞mettoの直接補語il ketchupが左方移動しており、代名詞のloが必須ですので、b)とc)が候補です。場所の補語sulle patatineも左方移動しており、これは場所の小詞ciで受けることができます。したがって、「そこにそれを」を意味するc)が正解です(正答率40.2%)。この文で「私」が伝えたい新情報は「いつもかけます」の部分であり、そのためにそれ以外の要素は既知のものとして左方移動されています。

  続いて、準2級N 27です。

La birra che era in frigo chi _____ bevuta?
a) ha b) si è c) se l’ha d) se l’è
「冷蔵庫にあったビールは、誰が飲んだのですか?」

 左方移動した直接補語la birraを受ける代名詞laを、動詞bereの前に付ける必要がありますので、c)とd)が候補です。c)とd)には強意の再帰代名詞siが付いており、その場合、近過去の助動詞にはessereを使いますので、d)が正解です(正答率16.8%)。この文で強調されているのは、前問と同様に、左方移動された要素の後の、「誰が飲んだのですか?」の部分です。

 1級N 31(正答率29.0%)も左方移動の問題ですが、紙幅が尽きたようですので、詳しくは私が書いた過去問題集の解説をご覧ください。今回は文法の問題だけを取り上げましたが、長文やリスニングの問題でも左方移動は所々に出てきますので、探してみてください。なぜ左方移動が使われているのか、前後の文脈から考えてみると楽しいですよ!

京都産業大学外国語学部准教授 内田健一

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