検定対策コラム
3級レベルとandare
- 白崎容子
- 元慶応義塾大学文学部教授Le Ali 20号
よく知っているつもりの単語が思いがけない顔を秘めていることがあります。たとえば動詞 andare。活用形はもちろん、前置詞 a や in と一緒に使うことだって、venire との違いだって、それに andarsene まで知っているんだから....なんでもござれ!しかし.....
【1】Senti Marta, ho due biglietti per l’opera. Ti ______ di andarci insieme?
- a) va
- b) vai
- c) viene
- d) vieni
となるといかがでしょう?空欄のほかにも andarci...同じ文のなかに andare がふたつも?そうだ、「一緒に行く」んだから andare じゃなくて venire かも....?
【2】Sentite, Ragazzi, io muoio di sete! Vi ______ di andare a bere qualcosa al bar?
- a) vado
- b) va
- c) andiamo
- d) andate
こちらは選択肢も andare ばかり。viがあるし、再帰動詞で vi andate かな?
迷ったら、空欄の前の短い言葉 ti, vi に目をつけましょう。再帰動詞だとすれば te ne vai, ve ne andate のように ne が入るので、ti, vi という形ではイマイチおかしいです。だとすると、ti や vi は「目的語になる代名詞」と考えるしかありませんね。そうはいっても、自動詞 andare とともに使われているのだから直接目的語ということはありえない.....、そうです!ti も vi も間接目的語代名詞なのです。ということは、このなかに前置詞の a が含まれているはずですね。いったいどんな“a”だというのでしょうか?
ここで Come va? とか Va bene. 「調子が~だ」「都合がよい」といった語法がひらめいたら、もうこちらのもの。 Mi(Ti ) va bene「私(きみ)にとって都合がよい」のなかに正解が秘められていそうです!
【1】【2】とも《andare a +人 di+不定詞》「人にとって~するのが好都合だ」という慣用句で、《a +人》の部分が、それぞれ間接目的語代名詞 ti, vi になっているのです。不定詞で示される「~すること」(【1】【2】とも「行くこと」)が文法上の主語の働きをしているので、動作の主体がだれであっても andare はつねに3人称単数形 va となります。「行くのはどう?」と都合を尋ねているのですね。【1】【2】とも、たまたま主語となる 《di + 不定詞》の部分にも、主動詞vaと同じ andare が使われているので、よけい目がくらみますが、Ti va di mangiare il pesce crudo?「あなた、お刺身を食べるのはどう?」など、di のあとにはさまざまな動詞が来る可能性があります。
使用頻度が高く、もうよく知っているから!と慢心しがちな andare のような動詞については、辞書をいちどじっくり読んで、どのような性格を備えているのか、実態をしっかり押さえておきましょう。ここにとりあげた用法は、辞書の andare の項目に、独立した語義としてとりあげられています。ついでに、イディオムとしてまとめてある語法もチェックしておくと、動詞の全貌をおさえると同時に、「語彙」問題対策にもつなげることができるでしょう。
そして動詞そのものとあわせて、侮れないのは、ti, vi や andarci の ci (ここでは場所の副詞「そこに」)など、綴りの短い言葉たちです。彼らにしっかり注目し、どうしてそこにいるのか、つねに意識的に対応する癖をつけましょう!この小さな存在が大きな意味を持っているのです!無視などしようものなら、とんでもない痛い目にあうこと必至です!