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エッセー集 イタリア散歩道

Portaaerei《空母》は女性名詞

菅田 茂昭
早稲田大学名誉教授(言語学・ロマンス語学)Le Ali 11号

イタリア語で20世紀半ば頃からとくに増えたもののひとつに[(他)動詞+名詞(直接目的語)]型の合成名詞があります。たとえばporta-(portare《運ぶ》の原形か直説法現在・3人称単数でしょうが、これを命令形とみる学者もあり)とaerei(aereo《航空機》)とでportaaerei《空母》という具合です。第1要素は、他動詞ならすべて可能というより頻繁に使われるものはporta-《運ぶ》、lava-《洗う》、guarda-《見張る》、mangia-《食べる》ほか数十の動詞に限られ、しかも-are動詞が圧倒的ですが、-ire動詞のapri-《開ける》なども加わります。第2要素としては、なぜか最初から複数形のもの(加算できないものは別として)が多いようです。日常使っているものに、lavapiatti《皿洗い機》、portafortuna《お守り》、portaombrelli《傘立て》、portavoce《スポークスマン》、apribottiglie《栓抜き》、apriscatole《缶切り》、guardaroba《クローク》、stuzzicadenti《爪楊枝》などがあり、portastuzzicadenti《爪楊枝入れ》は、この型がさらに拡張したものです。

さて、このような合成名詞も、単純名詞と同じく、その性と数から免れることはできません。chiusura-lampo《ファスナー》、treno merci《貨物列車》のように、内心構造をなす[名詞+名詞]型の合成名詞ですと、そこに含まれる中心語chiusura f.、treno m.の性が、合成名詞の性としてそのまま受け継がれるのですが、中心語をそこに含まない、外心構造と呼ばれる[動詞+名詞]型の合成名詞には性の決め手は見当たりません。イタリア語のportaaerei《空母》は女性名詞です。潜在する中心語を求めれば、動作主をなすnave f.《船》にたどり着き、この性を受け継いだものと解されます。同様に、家電品のlavapiatti《皿洗い機》も、macchina f.《機械》に一致して女性名詞のようです。しかし機械のない時代、あるいはこんにちでも人を指す《皿洗い》には男・女性の区別が必要でしょう。

ところが、動作主が明確とは限りません。不明な場合の扱いの常としてこの型の合成名詞は通常は男性名詞です。参考までに、フランス語やスペイン語では対応する例の合成名詞はすべて男性名詞です。

ここで第2要素に注目しますと、名詞本来の指示内容に応じて、その単複にかかわらず不変化となる以外、新たな複数形が要求されます。こうしてportacenere《灰皿》やstuzzicadenti《爪楊枝》(dente《歯》は必然的に複数)がある反面、grattacielo (grattare《引っ掻く》+cielo《空》)《摩天楼》の複数はgrattacieliとなります。しかし一般的には第2要素は最初から複数形に置かれる傾向が強いのも事実です。この同じ例がスペイン語ではrascacielosと単複同形になるほどです。

ロマンス語は、伝統的にゲルマン語とは逆に合成語より派生語の優勢な言語ですが、近年では合成語の増加が注目されます。もちろんイタリア語には英語やフランス語からのなぞり現象もみられますが、注意してご覧になると、この分野でのイタリア語の創造力には驚くべきものがあることに気付かれる筈です。

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