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エッセー集 イタリア散歩道

伝統と多様性の国

小林 満
イタリア語検定協会会長Le Ali 14号

今の日本が未来への展望を失ってしまっているかに見える、その原因のひとつは、第二次世界大戦の壊滅的敗北からの立ち直りのため、高度成長に邁進した結果、それ以前の日本の伝統的価値観をしっかり継承できなかったことにあるのではないだろうか。

伝統工芸における職人技に代表される緻密で端正な「わざ」は、まさに私たち固有の誇るべき文化である。日本のテクノロジーの進歩もこの文化があってはじめてありえたであろう。しかし、この伝統はこの島国に住む人びとにしっかりと継承されているであろうか。

イタリアも日本以上に大きな文化的伝統を有し、さまざまな干渉を外から受けながらもその伝統を維持している半島国である。私たちがイタリアに魅了されるのは、多くはその有形無形の文化的遺産に、であることは間違いない。しかし、気づいてほしいのは、日本も素晴らしい文化的遺産を誇れる国であることだ。だが、その文化的遺産をどのように継承していったらいいのか、それが問題なのだ。イタリアはその方策を考えるための、1つの大きな手本になってくれるのではないだろうか。

また、日本が「単一性」を志向しがちであるのに対して、イタリアは「多様性」を体現したような存在である点にも注目したい。日本をもイタリアをも襲っている今のグローバル化の大波の中で、いずれ文化的多様性は大きな価値を発揮することになると思う。

イタリアを学ぶことは、過去から未来へと向かっていく日本の姿を見通す眼を持つことにつながり、私たちが「多様性」を手にするチャンスを提供してくれるのである。

本協会はこれまで検定試験の実施をとおしてイタリア語の普及に努めてきたが、今後も検定試験を活動の中心に置きつつも、日本とイタリアの人的交流が直接的にできる可能性をさらに広げていくよう、具体的な活動計画を打ち出していきたいと考えている。

皆さん、いっしょに頑張っていきましょう。応援をお願いします。

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