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エッセー集 イタリア散歩道

<イタリア語への愛・すべては聖フランチェスコから 〜私の原点、アッシジ〜>

すぎうら ゆき
Adagietto 代表Le Ali 33号

イタリアとイタリア語を愛する皆さま、こんにちは!はじめまして、の方が多いかと存じます。このたびエッセー寄稿のご依頼を頂戴いたしました、すぎうらと申します。

今、このページを読んでくださっている皆さまは、どのようにイタリア語に初めて触れ、学習をスタートされたのでしょう。十人十色、とても強い動機をお持ちの方も、「なぜだかわからないけれど、イタリアが大好き!」という方も、それぞれ素敵な理由ですね。そんなきっかけを伺いに、私は今すぐにでも皆さまの元へ飛んで行きたいです。

「動物と話せるの?小鳥たちが寄ってきて静かに話を聞くの?すごい!かっこいい!」

それは8歳の時でした。フランシスコ会の教会に通っていた私に、あるひとりのシスターがアッシジの聖フランチェスコ(Francesco)の話をしてくれました。動物が大好きだった私の初恋と言えるでしょう。その瞬間から、聖フランチェスコへの想いがあふれ、「いつか必ずアッシジという町へ行く!」と、子どもながらに誓ったことを覚えています。その時のシスターの優しいお顔、柔らかな西陽と修道院の一室の少し古い木の匂いは、今も私の脳裏に鮮明に焼き付いています。(写真はウンブリア州スペッロ「インフィオラータ 」の花びら絵~カトリックの典礼「キリストの聖体」の祝日に合わせ行われるイタリア伝統の宗教行事~)

イタリア語を学び始めたのも、すべては聖フランチェスコのためでした。その生まれた国、イタリアの言語で聖人の本を読みたい、カトリックの総本山バチカン市国の所在地イタリア、その言語で書かれた聖書を読みたい、そんな強い想いだけが、長い年月、私を後押ししてくれました。

ずっと胸に抱いていた「アッシジで暮らすための旅立ち」が実現したその日、スーツケース1つ持ってローマに降り立ち、アンコーナ行きの電車に乗り、フォリーニョで乗り換え……、スペッロを過ぎて間もなく、目の前に飛び込んできた光景を私は生涯忘れることはないでしょう。ほんのりピンク色の中世の町が、やさしくも凛々しく、優雅に天空に溶け込むように浮かんでいました。アッシジ!それまで旅として訪れた時とは違う「今日からここで生活するのだ」という決意に胸がいっぱいになり、涙がこぼれました。

たくさんの時が流れ、私は今、横浜・山手イタリア山庭園のふもとで、イタリア文化をお伝えする小さなサロンおよびイタリア語教室を開き、本年で8周年を迎えます。 創立時より、私のもう一人のFrancesco と共に、ご受講くださる方々のイタリア語レベルの壁なく、常に軽快で楽しく新鮮にイタリア文化に触れ、イタリア語を学んでいただけるよう、誠心誠意努めてまいりました。今ではご受講くださる方々と、まるで家族のような温かい関係を築くことができ、感謝しかございません。

「いつか必ずアッシジという町へ行く!」小さき私の大きな誓いが、このような形になるとは想像さえもしていなかったことです。あの日、フランシスコ会のシスターが、私に聖フランチェスコの話をして下さらなかったら… 「シスター、ほんとうにありがとう」と伝えたいです。

イタリア、なんて美しい国なのでしょう。イタリア語、なんて美しい言語なのでしょう。イタリア語を読んでいると、時々その美しさへの感動に震え、涙があふれます。

アッシジの聖フランチェスコが、あの『神曲』で名高いダンテよりも前に、1200年代にウンブリア語で書いた祈りの詩 "Cantico delle Creature(被造物の賛歌)" は、私の道標です。この詩はVolgare(俗語)で書かれた最も古いイタリア文学と位置付けられているそうです。この詩を元に、イタリア在住のフランス人カトリック神父Jean-Marie Benjaminが現代風に作った歌詞にイタリア人作曲家Riz Ortolaniが曲をつけたのが、聖フランチェスコを主人公にした1972年のFranco Zeffirelli監督映画『ブラザーサン シスタームーン』の主題歌”Fratello Sole, Sorella Luna(兄弟なる太陽、姉妹なる月)”です。皆さまにぜひ、この美しい詞を読んでいただきたく、ここに大意とともに掲載させていただきます。美しい曲なので、機会があったらぜひお聴きください!

“Fratello Sole, Sorella Luna” 全文
Dolce è sentire come nel mio cuore
ora umilmente, sta nascendo amore.
Dolce è capire che non son più solo,
ma che son parte di una immensa vita,
che generosa risplende intorno a me:
dono di Lui, del Suo immenso amore.

Ci ha dato il cielo e le chiare stelle,
fratello Sole e sorella Luna,
la madre Terra con frutti, prati e fiori,
il fuoco, il vento, l'aria e l'acqua pura,
fonte di vita per le Sue creature:
dono di Lui, del Suo immenso amore,
dono di Lui, del Suo immenso amore.

「今、わたしのこころの中に、愛がそっと、つつしみ深く芽生えていると気づくこと、もう、ひとりではなく、わたしを包む豊かで光り輝く果てしないいのち、その一部がわたし自身であるとわかるのは、やさしく甘美なことです」と静かに語り始めます。そして「神はわたしたちに、まばゆい星をちりばめた天、兄弟なる太陽、姉妹なる月、母なる大地とそのあふれる実り、生い茂る草、花々… 炎、風、空気、清らかで澄んだ水を与えてくださいました」と続き「その水は神によって造られたすべてのものの、いのちの源です」と讃えます。最後に「すべては造り主である神の、限りなくとこしえの愛によるたまもの(恵み)です」と賛美しています。

大意/訳 すぎうらゆき、監修 谷崎新一郎(コンベンツアル聖フランシスコ修道会日本管区管区長)

こんなにも美しいイタリア語と共に生きるよろこび。イタリア語の持つ無限の美に、私は、これからもずっと、心を奪われ続けるでしょう。いつの日か皆さまにお目にかかれることを願いつつ、イタリア語への限りなき愛をご一緒に深めていくことができれば幸いです。

末筆になりますが、検定運営に携わられているすべてのご関係者の皆様にこの場をお借りし感謝申し上げます。そして最後に… 私の人生の師のひとりであり、最愛の友であった元事務局長、故M.H.女史に、永遠の感謝を贈ります。

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