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みんなの受験体験談

ペルージャ外国人大学にて

井内 梨絵
第23回2006年秋季 1級合格Le Ali 6号

ペルージャはイタリアの中部、緑豊かなウンブリア州の州都である。大学がふたつあり、ひとつはペルージャ大学、もうひとつはペルージャ外国人大学(Università per Stranieri di Perugia)だ。現在私が日本語・日本文化を教えているのは、このペルージャ外国人大学の学位取得コース、国際コミュニケーション学科と専門課程の2つで、いずれのコースも日本語は必修科目である。

私がイタリア語の勉強を始めたきっかけは、ジャコモ・プッチーニの「ラ・ボエーム」のヴィデオだった。旋律の美しさは私を魅了し、母音が多いイタリア語の響きにも興味を抱いた。週に1回、イタリア語のコースに通い始めたのは大学4年生の頃で、卒業後にはシエナに1ヵ月の短期留学をした。

駅のホームの時刻表には到着時刻の横に、遅延(ritardo)の文字。この国では電車が遅れることがあらかじめ想定されている。万事こんな呑気な国だけれども、人間味に溢れ、掘ったらいくらでも素敵なものが見つかりそうだ。イタリア語を将来何に役立てようか、という具体的な計画は無かったのに、もっとこの国の言葉や文化に触れてみたい、という漠然とした願いを持つようになった。

大学卒業の翌年1年間の予定で、学費の値段や街の治安など考えてペルージャ外国人大学に入った。レヴェルは5段階、それぞれに3か月のコースがあり、上級のみ前期3ヵ月後期3か月の6ヵ月コース。毎回授業に付いて行くのがやっとの状態ながら、1年3ヶ月、一応順調にレヴェルアップして上級コースの終了試験に合格した。さらにミラノの大学に行く準備をしていた矢先、ペルージャ外国人大学で日本語を教えないかとのお話を頂いた。イタリア語を一応話せることと、日本人であること、国文科もしくは国語科を卒業していることが採用試験応募の条件で、すでにそのコースで日本語を教えていらした先生のお勧めだった。

採用は正式に決定したが、私には教鞭を取った経験も、外国人対象の日本語教育法を勉強したことも無かったので、不安は大きかった。日本語の授業といっても、講義はイタリア語で話す。初めての授業の前、見るからに緊張していたのだろう、情けなくも学生に、「心配しなくていいのよ、あなたの好きなようにやっていいんだから。」と励まされてしまった。

こうして無我夢中の3年が過ぎると、イタリア語でそれなりにこみ入った話も出来るようになり、授業にも落ち着いて臨めるようになった。その一方、意思を伝えることを第一に優先するため、間違いの少ない使い慣れた表現を使うようになったのである。日々の生活に忙殺されて、勉強といっても大半は授業や翻訳の仕事の調べものに限られ、イタリア語力を向上させる努力を怠り、今のレヴェルから進歩できない焦りを感じ始めた。いわゆる“Fossilizzazione(化石化)”だ。自分のイタリア語に向き合い、改めて勉強し直さなければ、と思った。

ところで、ペルージャ外国人大学には、日本人留学生の数も多い。ここでの勉強を終えて帰国する皆さんが心配されるのは、今後どうやってイタリア語の勉強を続けるかである。方法は色々有るだろうが、毎日の生活の中でモチベーションを維持するのは容易ではなく、何か明確な目標が必要だと思うのだ。そのためにもイタリア語の検定試験を受けてみることは、良い刺激になるはずだ。勉強の成果が形になるのも励みになるだろう。それはこちらに住んでいる者としても同じで、向上する訓練を怠ると、先程述べた化石化が起る。特に私のような怠け者には、常に何か追い立てるものが必要だから、実用イタリア語検定1級の受験は良い目標になった。今回幸いにも1級を取得することが出来たが、自分ではまだ、これでいいとは思っていない。ニュースや講演を聞いても、本や新聞などを読んでも、内容をなんとなく理解するだけで済ませてしまっている自分に不満なのだ。

現在の目標は、試験の結果で判った自分の弱点をこつこつと克服することである。初心に返って大いに辞書を引くつもりだ。文法で曖昧な点も確認したいし、読解力、聴解力を高めたい。言葉の勉強には終わりが無い。ひたすら突き進むのも良いが、たまには立ち止まって、自分がどこにいるのか確認するのも良し、と思うのである。

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